日常に根ざすための場所。
Yorocco Beerが大船にタップルームを開いた理由。

Text:Maruro Yamashita Photo:Yumi Saito
MAY 13 2026 | 

鎌倉を拠点に、14年間クラフトビールを作り続けてきた<Yorocco Beer>。


23年からは鎌倉市笹目町に「Yorocco Beer Pub 笹目座」もオープンしていた彼らが、2店舗目となるタップルームを、2026年1月23日にオープンさせました。その場所は大船。大船駅から徒歩5分ほどの場所で、銭湯もあり、飲食店も多いエリアに「Yorocco BeerTap Room 大船」はオープンしました。


「待ってました」という声と、「まさか大船で?」という驚き。その両方を受け取りながら、<Yorocco Beer>は今、自分たちのビールや営みを改めて見つめ直しています。クラフトビール好きの人だけのものではなく、もっと生活の中へ。 “普遍的であること”と、“古くならないこと”の間を行き来しながら、彼らはどこへ向かおうとしているのか。新しいタップルームが生まれた今だからこそ聞けた、<Yorocco Beer>代表・ブルワーである吉瀬明生さんの現在地。

—  もうすぐ「タップルーム大船」がオープンしてから1ヶ月くらいですよね。(注:このインタビューは3月に収録されました。)

そうですね。5週間ていうところですね。

—  この5週間はいかがでしたか?

結構いろいろあって。お店に関しては、だんだん開店フィーバーみたいなものが収まってきて、次のフェーズに移行しつつあるというか。うちらも最初はバタバタだったんですけど、ようやく落ち着いて、改めて「自分たちは何をやりたいのか」を確認しながら提示していく段階に入ってきた感じがあります。

あと、結構びっくりしたのが、お客さんからのフィードバックがめちゃくちゃ多いんですよね。「待ってました!」って喜んでくれる人も多いし、その一方で、「大船でやるの意外でした」っていう反応も凄く多かった。でも、その両方があること自体が面白いというか。大船でやることによって、長い目で見ると、<Yorocco Beer>の何かが広がった感覚はありますね。


—  そもそも、大船にお店を作ろうと思った理由は何だったんですか?

単純に近いっていうことですね。ブルワリーから。ブルワリーの最寄りで、一番栄えている街が大船なんですよ。
大船ってかなり大きい街なのに、クラフトビールのボトルショップが一軒もなかったんですよ。うちも卸先はいくつかあったんですけど、缶で買って帰れる場所がなくて。
なんで自分たちがビールを作ってる一番近い街なのに、クラフトビールすら売ってないんだろうっていうことを、自分たちで解決しようという思いが強かったですね。

—  だから自社以外のビールも扱っているんですね。

そうですね。単純に、うちのだけ売っててもしょうがないし、クラフトビールというカルチャーの一片を見てもらいたいというか。


—  お客さんから、「待ってました」と「意外でした」の両方があったという話が面白いなと思いました。

大船って飲み屋がめちゃくちゃ多い街なんですけど、安い飲み屋も多いし、歴史的に労働者の街みたいな側面もあると思うんですよね。そういう街のイメージと、<Yorocco Beer>のイメージが、その人の中で結びつかなかったんじゃないかな。

—  なるほど。確かに、自分も大船が鎌倉市だって知ったとき意外に思いました。

そうそう(笑)。鎌倉とか逗子とは文化圏が違うと思うので、そこへの驚きなんだと思うんですけど、僕らとしては全然違和感なくて。

—  お客さんたちの生活圏も異なるんですかね?

笹目座は結構特殊で、やっぱりあそこの周りに住んでる人ってのはかなり少ないので、どうしても休みの日にちょっと足を伸ばしてくれるお客さんの方が多いんですよね。でも大船は、本当に“ド生活圏”。通勤で通るとか、乗り換えで使うとか、そういうお客さんが多くて。日常の一部として使ってくれている感じがあるんですよね。それは僕らが本来目指している在り方なので、凄く嬉しいですね。

—  ローカルの日常に根差してるんですね。

そう。まさにそんな感じです。

—  ここができたことで、作るビールにも変化はありそうですか?

それは絶対あると思います。ここはやっぱり寄りやすいから、僕自身も来る機会が多いし、お客さんが何を飲んでるかとか、注文するときのコミュニケーションとかを直接見れるので、こういうものを求めてるんだなって感じる機会が増えると思うんですよね。
それが確実に影響はしていく。ただ、今の<Yorocco Beer>って、どんどん普遍的な方向に向かっていて。その大きな流れ自体は変わらないんですけど、もしかしたらより誰が飲んでも美味しい方向に行くのかもしれないと思ってます。
ただ、その一方で、ここを見ている限りだと、やっぱりインパクトを求める人も多い。だから、分かりやすいフックがあるビール、キャッチーなビールも必要だなと思っていて。
そういうものを作って、大船で呑んでいる、クラフトビールを知らないという人たちにも、もっとアプローチしたい気持ちはありますね。

—  より幅広く、より分かりやすく。

そうですね。「IPAって何?」っていう人にも届くような。

—  大船って、昼から呑めるようなお店も多いですが、クラフトビールには馴染みがないという人も多そうですよね。

そうそう。だから、ここのフラッグシップは“Hometown Stout”なんですよ。


“スタウト”って言葉自体は、昔から<KIRIN>とかも使っていたし、クラフトビールを知らないおじさんでも知ってたりするんですよね。おじさんたちが、「あそこの角の店に行けば、美味いスタウト飲めるよ」みたいな感じで、自然に広がっていったらいいなって。
もちろんおじさんだけじゃなくて、若い子も(笑)。若い子たちも結構来てくれるんですよ。20代とか、そんなにクラフトビールに詳しくなさそうな人も来てくれてて。そういうの、めっちゃ嬉しくて。そういう部分は、これからも大事にしたいですね。

—  色々な人たちの生活圏に入ってくるお店だからこそかもしれないですね。

ね。勿論うちを目指して来てくれる人も凄いありがたいんだけど、特別じゃない日常の選択肢、今日どこ飲み行こうかってときに、とりあえずヨロッコで一杯飲んで考えようよみたいな、そういう選択肢に上がってくれたら嬉しいなって。

—  大船は、笹目座よりもフードがかなり充実してますよね。

それは、ショウちゃん(原宿にて「BLOCK HOUSE 水曜カレー」や「SHUSAN」など間借りスタイルで飲食店を運営する、食に関するあれこれを行う高木賢祐さん)との出会いが大きいですね。職業柄、ビールに何が合うかはずっと考えてきたんですけど、笹目座でいろんなポップアップをやってきた中で、「これだ」って思ったのがショウちゃんで。感性も近いし、うちのビールと凄く合うと思うんですよね。しかも、“アテ盛り”みたいなスタイルって、ユニークなんだけど普遍性もあるんですよね。日本人なら、老若男女問わずどこか馴染みがあって、頼むことに対して構えなくていいし、リラックスして楽しめる。
その上で、ショウちゃんの料理って少しスパイスが効いてたりして、そのバランスが絶妙なんですよ。ワインにも勿論めちゃ合うし、ワインのお店ではこういう組み合わせをやってる店はあると思うけど、クラフトビールではまだ少ない。
しかも、世界的に見たら、日本独自のクラフトビールのあり方として面白いんじゃないかなって思ってます。

—  これからの<Yorocco Beer>がどんどん普遍的な方向にいくかもというのは、いわゆるクラフトビール好きの人だけでなく、それ以外の人たちのことも視野に入っているということですか?

そうですね。それは、やっていくうちに変わってきましたね。まだそれが正解なのかも全然わからないけど。ビール文化というものは、そもそも長い歴史があるものじゃないですか。
だから、自分の中では、それを切り離して考えることが難しくて。知れば知るほど、“オーセンティックなもの”への衝動が強くなっていったんですよね。
最初はそういうビールに対する理解も浅かったので、自分が作りたいものとか、新しいものばかりにフォーカスしていたけど、今は、昔から続いてきた偉大なる流れみたいなものを無視できなくなってきたんです。だから今は、その流れを少しだけ現代的にしたり、地域に則した形にアレンジする。それが<Yorocco Beer>のやってることなんだと思います。

—  14年目やって来たからこそ、改めて見えて来たものなのかもしれないですね。

結局、自分でもあまり全部をコントロールしてるつもりはなくて、3年前に鎌倉でお店を作って、昨年は大船でお店を作って、それによってやっぱりいろんなことが見えてくるし、さっき言ったみたいに、フィードバックも凄いあるから、またやりたいことが変わってきたりして。それが逆に面白いというか。僕はどっちかというと、最初から確かなゴールが見えているようなタイプじゃなくて、こう途中回り道をしながら、どんどん身についたものをある意味形にしてってるだけというか。
実際、今また、全然できることあるなって思えてて。


来年とか再来年には、小さい仕込み設備を新しく導入したいとも思っていて。そうすると、今はできない冒険もできるようになったり、僕だけじゃなく、スタッフ発案のビールとかも作れるようになるかもしれないし、<Yorocco Beer>っていうブランドの中で、“普遍的なもの”と“そうじゃないもの”を両立できるようになるから。今はまだ、その途中段階なんですよね。
ただ一方で、クラフトビールって流行り廃りがあるジャンルでもあるので、「昔からあるブルワリーだよね」で止まってしまうと難しい。作りたいのはクラシックなビールなんだけど、“古いブルワリー”とは思われたくない。そのためには、ちゃんと伝えていくことも大事だと思ってます。

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