日常を幸せにする料理
TA QUE À LA BOUNET 船田憲宝
Text:Maruro Yamashita Photo:Yumi Saito
過去に「stacks bookstore」でもニ度のPOP UP EVENTを行ってくれていて、5月3日(日)に三度目の開催が決まっている、白金の「TA QUE À LA BOUNET(タカラブネ)」は、2019年4月にオープンし、今年で8年目を迎えた人気料理店。オーナーシェフである船田憲宝さん(通称ノリくん)が、和食とフレンチを学びオープンさせた「タカラブネ」は、砂糖、みりん、酒を使わず、素材の味を活かした美味しい料理が楽しめるお店。気軽にフラッと立ち寄れて、いつ行っても必ずその時々の旬なものを美味しく食べさせてくれる「タカラブネ」のようなお店があるのは、東京の魅力の一つだと思う。店主のノリくんの料理に対するスタンスはどのように確立されたのか、これまでとこれからのことについて聞きました。
— 元々、料理を始めたきっかけは?
高校を卒業してからですね。料理がやりたくて専門学校に行きました。
ちょうどカフェブームだったこともあって、自分はバンタンのデリカフェ科っていうところに行ってて、一年制だったので一年だけなんですけど。元々、洋食屋をやりたかったんですよ。オムライスとか、いわゆるそういう洋食というか。
— ー ノリくんの地元って広島の呉のほうだったよね? 周りにもカフェとかがあった?
いや、うちの地元は広島からも遠い田舎だったんで、そういうお店は全然なくて。カフェっていうよりは昔からあるような喫茶店があるくらいでした。
— 当時から料理をするのは好きだったの?
いや、そんなことないと思います。高校のときに寿司屋と喫茶店でバイトしたりとかはしてたけど、何も考えてなかったし。進路を決めるときに料理を選んだっていう感じですね。

— 上京してどうでした?
学校の友達も皆カフェが好きだったので、皆でカフェ巡りとかして。上京したばかりだったから、格好良いな〜、都会だな〜って感じでした。
— けど、自分でやるなら洋食だなと。
そうだったんですけど、専門学校に入学して3ヶ月とか、夏くらいにはもう、「いや、これ違うな」って思って。和食をやりたいと思ったんですよ(笑)。先生がフレンチとかイタリアン上がりの先生たちが多くて、話を聞くとフランスで修行してたって人も多くて。でも、日本人で和食が作れなかったら海外に行っても格好悪くないって思って。
— でも、学校に和食科みたいなのはもちろんないよね?
ないです。先生もいなかった。
— じゃあ自分で修行先を探して?
そうですね。募集も来てないので、自分で探すしかなくて。もう無いお店なんですけど、自由が丘にあった「美好」っていうお店で働き始めました。親方が10年で切り上げちゃって、もう海外に行ってるんですけど、ご夫婦でやっていたお店で。19、20歳くらいから、最初は3年間の予定が5年間。

夫婦でやってるお店で、親方の料理がめちゃくちゃ好きだったんですよね。今の自分のベースになってると思います。当時、創作和食みたいのが流行ってて。和食とは違った華やかさの盛り付けでモダンな感じのが。そういうのとは全く違って、親方の料理は”THE 和食”って感じで。その頃は完全に和食だなって思ってました。



ただ、5年働いて辞めるときに、親方に「お前、洋食やれば?」って言われて。自分的には、和食に向いてないって言われた気がして、結構悔しかったんですよ。こんなに和食好きなのにって。それで、続けようって思って。
友達が働いてた創作和食のお店が人を探してるってことだったので、食べに行って。自分のやりたい料理とは違うけど、給料も良かったし入ってみたんですけど、創作和食屋さんなので、和食出身の人が一人もいなかったんです。フレンチ出身、中華出身とかそういう人たちが働いてたんです。この人たちより和食に関しては自分の方ができるなって思ったんですけど、その人たちはフレンチとかができるじゃないですか。それが悔しくて。
じゃあ自分もフレンチも作れるようになろうと思って、そのあとフレンチに行きました。和食に戻ってくるつもりで。

— 自分の作りたい料理が明確だったんですね。
そうですね。和食が自分に合ってるっていうか、良いなって思ってたんで。
— 良いなってのは普通に好きみたいなこと?
なんですかね、好き… どうなんだろ。
— 色々な決め方があるじゃないですか。ビジネス的な側面から決める場合もあるだろうし。
そうですね。でも、そういうのじゃなかったですね。
格好良かったんですかね。分からないですけど、それくらい単純な感じだと思います。で、フレンチ入ったらずっとフレンチを作るじゃないですか。やっぱやってたら、フレンチも良いなって思うようになって。それで、その次の年くらいにフランスに行く機会があったんですよ。専門学校の先生に、フランスの田舎でフランス人がやってる寿司屋に和食を教えに行かないか? って声をかけてもらって。

本当は寿司を教えてほしいって話だったんですけど、さすがにそれはできないので(笑)。味噌汁とか出汁とか、日本の味に近づけるようなことを教えてました。
— どれくらいの期間だったんですか?
ワーホリで一年間です。無茶苦茶良かったんですよね。今でも思ってますけど、住みたいなって思うくらい。フランスの田舎で、ブルターニュっていうとこだったんですけど。地図でいうとイギリスの真下くらい。そこの海沿いの街に住んでたんですけど、人も良いし、気候もまぁ良かったですね。一年中ずっと10℃と20℃の間くらいで。イギリスみたいな感じで雨がずっと降ってるイメージなんですけど、一日のなかで天気がコロコロ変わって。今は雨降ってるけど、一時間後には晴天みたいな。そういうのも好きでしたね、なんか気持ち良いなと思って。

— そこでの食の体験はどうでしたか?
基本的に日本でもフランスでも、フレンチのベースは一緒じゃないですか。その頃はもうレシピと材料を見たら手順も分かるし大体作れるようになってたんですけど、もっと効率よくやってましたね。時間の使い方が上手なんですよ。昼と夜の間にしっかり3時間くらい休憩もとるし。あと、タフですね。皆、営業終わった後にバーに飲みに行ったりするんですよ。料理のスキルとかってよりか、そういうところに刺激を受けましたね。

— スタンスに影響を受けたんですね。
ですね。それと、感性がやっぱり豊かだなって思いました。それは料理人だけじゃなくて、普通のお客さんもそうで。お店でフランス人がフレンチを食べて、「これなんの香りかな?」 とか、「あの香りがする」とか感想を言ってるんですよ。それって凄い良いなと思って。日常でもちゃんと料理に向き合って食べてるってことじゃないですか。


東京に戻ってきて、知り合いが店を出すっていうので、ビストロで料理長をやらせてもらいました。居酒屋の経営者がビストロをやりたいっていう形だったので、メニュー開発の人もいて、一緒に考えながらやる感じでしたね。そこに2、3年いて、そのあとはいろんな店を転々としました。その途中で一回、ちょっと体調崩しちゃって、1ヶ月以上休んでた時期があって。リハビリみたいな感じで、スーパーの魚屋さんでも働いてました。派遣だったんですけど、給料も良かったんで。 刺身を作ったり、対面で魚おろしたりして、こんなに魚をおろしたことないってくらいおろしてました。 あれはあれで楽しかったし、すごい良い経験になりました。

そのあと和食屋に戻って2年くらい働いて、そろそろ独立しようと思って物件を探し始めました。上原の「ランタン」のオーナーが専門の同級生で、うちでバイトしながら物件探しなよって言ってくれて。


— お店の場所は、最初からこの辺りで探していたんですか?
最初は神楽坂で探してました。一つ良い物件があったんですけど、実績もないし他にも応募があったみたいで、すごい待った挙句に決まらなくて。
でも、この辺で良かったですけどね。この辺の雰囲気が良いよって聞いたから、散歩してみたらすごく良くて。で、物件調べたらここが出てきて。応募したらスーって決まって。神楽坂と比べて嘘みたいでした(笑)。


居酒屋みたいなことがやりたかったんですけど、最初はコースでした(笑)。クラウドファンディングをやったんですけど、リターンのことを考えるとコースの方が良いんじゃないかって思って。和食から始まって、途中からフレンチになって、最後はパンと肉料理とデザートで終わるみたいなコースでした。終わってみたらフレンチだったねっていうコースにしたんですよ。 今思うと、あれはあれで面白いんですけど、別にやらなくても良かったなって思います(笑)。

— なるほど(笑)。
今になって、コースをやって欲しいとかもたまに言われるんですけど、お客さん的にもコースだとお店の使い方が全然変わると思うので、今のスタイルの方が良いかなって思います。お店にきてくれる頻度も減るだろうし、デートだったり、少しかしこまった感じのお客さんになると思うので、今の居酒屋っぽい方が自分に合ってますね。
— 確かに、フラッと立ち寄れるのが良かったりしますよね。砂糖、みりん、酒を使わずに仕上げるという料理のスタンス自体は最初からなんですか?
最初は使ってました。でも、要らないんじゃないかなって思い始めて。最初もちょこっとしか使ってなくて。最初に働いてた和食屋の親方の料理がそんな感じだったんですよ。砂糖とみりんは極力使いません、みたいな。自分にとっても勉強になりそうだし、これは振り切っても面白いかなって。実際やってみたら良かったんですよね。素材の味がして美味しいし、甘さがないから塩分も減らせて、体にも良いし。このスタンスは多分もう変わらない気がします。誰かに雇われない限り(笑)。



— これからやってみたいことはありますか。
いつかフランスで店をやりたいですね。そのためにも、ポップアップとかケータリングとか増やして、海外に行く機会も増やしたいなと思ってます。向こうでやって、それで知ってもらって、東京に来たときに食べに来てもらえるようになったらいいなって。


— フランスで過ごした時間が、やっぱり大きいんですね。
めちゃくちゃ良かったんですよ。料理ももちろんですけど、それよりも人との距離感とか、日常の感じがすごく好きで。知らない人でも普通に話しかけてくるし、挨拶もちゃんとするし。そういう空気が自分には合ってるんだと思います。
