ZONSHANG
翻訳のズレを表現する
シルクスクリーンというメソッド

Text:Maruro yamashita Photo:Shin Hamada
APRIL 23 2026 | 

毎年”TOKYO ART BOOK FAIR”の時期になると、Instagramのフィードにブートレグのラップカード(註:90年代に主に発売された、当時のヒップホップのアーティストをテーマにしたトレーディングカード)をよく目にする人も多いのではないでしょうか。街中でポスティングされる水道管工事の広告マグネットをベースに、シルクスクリーンでアーティストの写真を刷り重ねた、このラップカードを手がけているのが、本多さんとナガシマさんによるデザインユニット、ZONSHANGです。

ZONSHANGは「stacks bookstore」で2025年3月にPOP UPを開催し、現在(2026年4月)は2回目の展示となる”ULTRA MAGNETIC STACKS 2″を開催中。

世間一般的に価値がないとされているものを一つの作品へと昇華するという、ヒップホップ的なマインドを強く感じさせるZONSHANGのクリエイションについて話を聞きました。

ー ZONSHANGていうのは、本多さんとナガシマさんのデザインユニットなんですよね? どのようにスタートしたんですか?

本多:2016年くらいですね。「美学校」(注:神保町にある、年齢・学歴・経験不問の私設美術・音楽学校)でデザインの講座を手伝っていたんですけど、そこでナガシマと出会いました。当時ちょうど、自分自身もDIYでシルクをまたやり始めていたタイミングで。木枠に手作りのメッシュを張ったりしながらやってました。

ナガシマ:僕はそのとき生徒でしたね。

本多:話をしていたら、元々見てきたものとか好きなものが似てる感じだったんで、色々「こういうのどう?」って見せていたら、面白がって食いついてくれてきたので、そっから拡張していったんですよね。

ー 最初から作品制作を前提にしていたんですか?

ナガシマ:いや、最初は作品というより、面白いと思うものをひたすら共有してました。写真とかイメージとか、「これいいよね」みたいなのを送り合って。

本多:それを集めていくうちに、組み合わせたり分解したりして、絵にしていくみたいな。最終的にシルクスクリーンで出すっていうのだけは、なんとなく決めてた感じですね。極端に言うと、最後がシルクスクリーンになってれば、途中は何やってもいいか、みたいな。

ー なるほど。一番最初はどのようなものを作られたんですか?

本多:最初にやったのは、<THRASHER>の”Skate and Destroy”のTシャツを漢字に置き換えるみたいなことですね。”Skate and Destroy”を全部切ってバラバラにしたものをパーツとして、「滑板破壊」みたいな。

ー データ上で組み替えるってことではなく。

本多:そうです。既存のTシャツをコピーして、それを切って、バラバラにして、この辺の机の上で組み替えていくんです。パソコンでデザインするんじゃなくて、手作業で完成させて。
そのときに出てきたニュアンスがすごく面白くて。これだな、みたいな共通認識ができたのが、最初のきっかけですね。

ー 単なる翻訳じゃなくなるんですね。

本多:そうですね。外のものをこっちに持ってくるときに、一応頑張って訳そうとはするんですけど、意味も間違っていたりするし。そのまんまのニュアンスじゃなくて、ズレも含めて面白いというか。サンプリングと翻訳のあいだみたいな感覚ですね。

ー 先ほど、本多さんはシルクスクリーンを再開されたとおっしゃられていましたが、元々は?

本多:大学のときに、友達と遊びでTシャツ作ったりしてたのが最初ですね。いわゆる裏原っ子だったので。「NOWHERE」に置いてあるTシャツとか、ああいうのも多分シルクスクリーンだろうなっていう認識はあって。
ただ当時は全然わかってなかったし、今みたいに色々な情報にアクセスできる環境もなかったので、人づてに色々聞いて。設備だけは通っていた学校にあったので、そこで触れたのが最初です。

 

ー シルクスクリーンプリントという手法にこだわっているのはなぜなんですか?

本多:自分にとってはDIYの象徴みたいなところがあるんですよね。手で刷る工程があって、古くて新しいというか。工夫と知恵でなんとかできる余白がある。シルクにさえなっていれば、当時好きだったものに近いだろう、みたいな感覚もあるし。だから最終のアウトプットとしてとても重要なんです。

ー 手作業ならではのズレも含めて、ということですね。

本多:そうですね。翻訳のときに生まれるズレもそうだし、手でやることで出るムラとかも含めて、全部肯定できるというか。

 

ー ヒップホップの音作りでいうと、昔のサンプラーでシークエンスを組むとどうしてもちょっとしたズレが出るけど、逆にそれが良い! みたいな話に近そうですね。

本多:まさにそうです。すごく近いと思います。ナガシマくんがそういうことに詳しかったりするので、サンプラーを自分でも買ってみて、よく聴いてた曲を音源から拾い直して再構築したりしてるんですよ。そうすると、どうやって音を作っているのかが見えてきて、すごい勉強になるんですよね。音に厚みを出すために元の音を潰したりとか、いろんな工夫があるのも、自分のやっていることと凄く似てると思うんですよね。素材の扱い方というか。

ナガシマ:僕らもトラックメイカーがどうやってサンプリングしてるか調べたりして、それをシルクでやるんだったら、どういう方法に置き換えられるか考えたりしてましたね。
刷りミスとかも、サンプリングしたときにビットレートが落ちる感じに近いんじゃないかと思ってあえて集めたりもしてます。

本多:ヒップホップの音の作り方とかを率直に図案化してるみたいな感じですね。

ー 技術的な面でもいろいろ試されてますもんね。

本多:そうですね。例えばビールの缶に貼ってるやつは、直接刷ってるわけじゃなくて、転写みたいなやり方でやってて。黒を先に刷って、その上に白を重ねて、さらに接着剤になるインクを刷って、それを缶に貼って剥がすとインクだけ残る、みたいな。昔の自転車のロゴとかも多分そういう方法でやってたんじゃないかなって。

本多:今回「stacks」で展示するポスターでは、偽銀箔的なものを使用した作品も作っていて。

本多:本物の銀箔って超高くて。これは金ですけど、こういうペラペラの偽物みたいなものがあって。

本多:触ると本当に崩れ落ちるくらい薄いんです。シルクスクリーンの版でボンドの成分をインクと同じように刷った上に、これをこうやって置いていって、その上からまたインクで刷ってという感じですね。

本多:今回の箔を使ったやつだったりとか、展示をする際にはシルクスクリーンの技術的に、ただ刷るだけじゃなくて、+α、こういう実験ができるというようなこともお伝えしたいんです。僕はプリンターでもあるんで、1つ新しい実験を盛り込んで、テクニカルなことをプレゼンする場になると嬉しいなって思っていて。展示を観に来てくれたアーティストの人と話したりして、「こんなこともできるんですよ」って伝えたり。
シルクって、頑張ればなんでもできるというか、ガッツと知恵があれば結構何にでも転用できると思っていて。

— 今後の ZONSHANGとしてのスタンスについてはどう考えていますか?

本多:基本的にはやっぱり、本物になろうみたいな欲求よりは、ちょっと馬鹿らしくて、偽物っぽいことをずっと続けてるのが楽しいっていう感じですかね。翻訳された偽物というか。海の向こうのカルチャーへの憧れが、そのまま日本に伝わってきてるのを見てきたのが僕ら世代だと思うんですよ。そこからさらにもう一回ひねると、こういう着地になるのかなって。やっぱりスケートとヒップホップから物凄い影響を受けているので、そのアティチュードというか、考え方ややり方が残っていて。その感じを残せるのが、シルクスクリーンという手法なのかな。

ナガシマ:スケボーでステアをオーリーで降りるとかはもうできないんで(笑)。でもその感覚だけは残ってるというか。

本多:シルクスクリーンプリントって、新しいことをやってるっていうよりは、昔あったけど忘れられてるものを、もう一回やってる感覚に近いと思うんです。結果はそんなに変わらないかもしれないけど、やり方を変えると面白い。そういうものがまだあるはずだなと思ってます。

 

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