森と街のあいだのコーヒー
「FORET COFFEE」松澤岳久の営み

Text:Maruro Yamashita Photo:Yumi Saito
MARCH 26 2026 | 

長野市、善光寺の近くにある「FORET COFFEE」。店主の松澤さんは隣町の信濃町に暮らし、そこから車で30分ほどかけてこの店へ通っている。信濃町には焙煎所もあり、現在はその二つを行き来しながら、家族とともに店を営んでいる。
もともと松澤さんがコーヒーを好きになったのは、野尻湖の湖畔や自然の中でコーヒーを淹れて飲んでいた時間からだったという。その安らぎを街の中でも感じられる場所にしたい、そんな思いから店名はフランス語で”森”を意味する「FORET」と名付けられた。自然の中でコーヒーを飲むような安らぎを、街の中で表現するコーヒーショップだ。

― 地元は隣の信濃町ですよね?

そう、信濃町。今も信濃町に住んでる。

― 「FORET COFFEE」が2018年オープンとのことですが、その前のことをまず聞きたくて。

ここのお店のオープンが2018年の6月なんだけど、元々はこの同じ通り沿いに、洋服屋さんとカフェが入った、いわゆるライフスタイルショップみたいなのがあって。建築事務所が運営している「4D STUDIO」っていうところなんだけど、そこに2014年から間借りで場所を借りてたんだよね。

― コーヒーを出していたっていうことですよね?

そうそう。で、自分の店に良い場所ないかなってずっと探してて、この物件があったから入ったっていう感じで。
だから、2018年にオープンなんだけど、間借りも含めると14年からずっとこのエリアでやっていて。もっと前は会社員として設計の仕事をやってました。

― それがどういった流れでコーヒーに?

そもそも数学が得意だったからずっと理系で、そういう大学に行って、そういう仕事をしてって感じのを30代半ばまでやってて。
でも、好きなことを仕事にしたいってずっと思ってたんだけど、何が好きなのか分からなくて。

― 何がやりたいんだろ? と。

そうそう。中学の頃から「何がしたいんですか?」って聞かれても、分からな過ぎて適当に答えてて(笑)。得意なのが数学とかだったから、なんとなくそのまま理系の仕事に就いてはいたけど、ずーっと「好きなことって何だろう」って思いながら生きてきたんだけど、コーヒーを飲むことはずっと好きで。自分で淹れたりしてたんだよね。


あるとき、好きだったから焙煎してみようって興味を持って、それをやってみたのが沼にハマるきっかけで。
焙煎し始めるとずっとやっちゃうから、「出店してみない?」とか「お店で出してみない?」って言ってくれる人が増えてきて、野尻湖の「LAMP」で週に一回だけコーヒーを淹れるっていうのをやり始めて。そういう流れで、「4D STUDIO」から、うちでもやってみない?って声かけてもらって。だから、働きながらコーヒーを淹れるっていうの…

― 趣味の延長として始められたんですね。

そう。それが多分3年くらい続いて。2013年くらいから焙煎を始めて、2年くらいは働きながらやってて、そこでも働きながらやってて。

― その頃ってもうお子さんいらっしゃいますよね。

子どもが二人いて、家も建ててってとき(笑)。

― 大きな決断ですよね。

大きかったですね。でも、周りからの後押しみたいなものがあったからこそって気がして。焙煎をやっていると、うちにも豆を卸してくれない? って、応援みたいな感じで言ってくれるお店がいて。その人たちも、僕の状況、子どもが二人いるとかを分かってくれていたし、子どもがいても楽しく生きられるなら独立したほうが良いよっていう考えの人だったんですよね。
で、そうやって僕の焙煎した豆を使ってくれる店が増えて、大きな焙煎機が必要だなってタイミングで、焙煎始めた頃から通って味を見てもらっている僕のコーヒーの師匠、京都にいる焙煎家のオオヤミノルさんなんだけど、そのオオヤさんが焙煎機を手放すからどう? って言ってくれて。それが8kg用の大きい焙煎機で。元々が500gの小さいのを使っていたから、かなり大きくなるんだけど、せっかくオオヤさんが譲ってくれるし、色んな人の後押しもあるし、やるしかないかなって。結構な決断だったけど、ずっとモヤモヤしながら生きていくなら、どこかで頑張ろうと思って。

 

― お店の場所はこのエリアで探していたんですか?

本当は信濃町でやりたかったんですよね。自然の中でコーヒーを淹れて飲むのが好きだったから、そういう空間で始めたかったんですよね。今でこそ <YAMATOUMI>の瀬木さんがいたり、「温石」や「Vrac Market」とかも出来て少しずつ賑やかになりワクワクしますが、5年くらい前までは… 生活が成り立つ場所を設計しないと独立は難しいと思って、まずは家から通える範囲の長野市で探しました。好きだけでお店をできるわけじゃないし、ある程度の家族が幸せになるためにっていうのを設計しないといけないし。

ゆみ でも信濃町に焙煎所があるよね。

そう、信濃町に焙煎所を作って、一応2店舗っていう感じ。
長野市では街の休憩所としてコーヒースタンドを。信濃町の焙煎所では自然の中で町とは違う心地よさを表現できたらと思っています。

― この善光寺周辺のエリアとか、長野駅の辺りのエリアっていうのは、松澤くん的にどのような場所なんですか?

信濃町だと高校は長野市まで来るから、当時は駅前で遊んでました。古着屋さんに行ったり、映画館に行ったりっていう感じで。だから、関わりのない場所ではないし、昔遊んでた場所を少しでも良くできたらいいなっていう思いはあります。

当時あった個人の洋服屋や古着屋はほとんどなくなっているし、チェーン店が増えちゃった。それはちょっと寂しいけど、少しずつお店は増えてきていて。

― 移住者の方がお店をオープンしたり?

信濃町だと新しいお店ってほとんどが移住者の人たちが始めてるんだけど、長野市は半々くらいかな。地元も長野の麻子がやってる「BIRD」とか、移住して来たジャオちゃんの「椒(jao)」とか。

― 良い空気のお店が増えて来ているんですね。
「FORET COFFEE」は どんなお店にしたいと思っていましたか?

元々、野尻湖の湖畔とかでコーヒーを淹れて自分で飲んでたのが、コーヒーを好きになるきっかけだから、自然の中でコーヒーを飲む安らぎとか心地よさみたいなものを、お店で表現したいなと思ってました。

イメージは、森の中の大きな木の下に動物たちが集まって休むみたいな。自然な流れの中にあるっていうのかな、そういう場所を作りたいなと思って「FORET」にしました。
あとはやっぱり、地域の人に喜んでもらえる空間を作りたいっていうのは、この7年間ずっと考えていることですね。でも、なかなか難しい。伝わり辛い部分もあるし。海外の人には響くけど、地域の人には本当に毎日の積み重ねって感じ。

― この辺のローカルなお客さんはどんな年代の人が多いんですか?

本当に色々です。高校生もいるし、大先輩のおじいちゃんもいるし。来てないと「大丈夫かな?」って思うような(笑)。毎日来てくれて。それがこういうカフェの楽しみというか。一杯の値段が安いから毎日でも来れるんですよね。

― 店内には松本セイジさんや5eLさんの絵もありますが、展示を開催したりもしているんですよね。

そうだね。ギャラリーに行くのってハードルが高いと思う人もいると思うんですけど、コーヒーショップでやれば、コーヒー一杯飲めば絵も観れるじゃないですか。そういう場所にしたくて。アーティストの個展も少しずつ企画してます。最近は企画できてないけどまたやっていきたいです!

― 店を始めた頃と今とで、変わった部分や変わらなかったことってなんですか?

一番は働いている人が変わったことかな。最初はスタッフがいたけど、2年前に出産で卒業して。それが一番の変化かもしれない。

― そこからは家族で営業されているんですよね。

そう、家族で。一人で頑張ろうと思ってたんだけど、全然回らなくて(笑)。で、その頃、子どもが中3と中1だったのかな、取り敢えず皿洗いだけでもお願いして良い? ってお願いして(笑)。でも、そしたら全然色々接客もしてくれるし、ちょっとずつ、土日だけ入ってもらうようにお願いして。で、その後くらいに焙煎所を作って。そっちにも喫茶スペースがあるから、そっちで妻が働きたいと言ってくれて。元々歯科衛生士だったんだけど、いつの間にか家族で頑張ることになって。そこが今すごい身軽で。いつでも休めるし、楽しく生活できてるのが一番のポイントかな。後は、やってる時の思いはあまり変わらず。営業時間が減ったくらいかな(笑)。

ゆみ 16時までなんだよね。

昔は8時から18時までやってたけど、働きすぎはよくないなと思って。売り上げもそんなに変わらなかったから16時までに。夜のイベントも無理せず(笑)。気持ちが乗った時にまたやっていきたいなぁ。

― 自分たちの生活も充実させた上で、お店があるってことですね。

そう(笑)。家族と一緒に通勤してるから、夜遅くなると僕が一人で帰らなきゃいけなかったりするしね。今は無理せず、生活とのバランスを考えてやってる感じだから、家族で働くようになったのは、改めて考えると大きいのかもしれないね。
本音を言えば、長野市の店は手放して信濃町だけでやりたいけど、生活のことを考えたら、信濃町から長野まで30分くらいかけて行き来する今の形がベストなのかもしれないなって。子どもが将来ここで何かやりたいって言うかもしれないし。
信濃町は生活には心地よいけど、商売としては難しい。理想は、スノーボードして自転車乗って少し働く生活だけど(笑)。

― 心とお金のバランスを取りながらって感じですね。

家族経営は身軽で良いよね。スタッフがいるとチームとしての楽しさはあるけど、自由は減る。明日休みたいなって思っても、スタッフがいたらそういう訳にもいかないじゃん(笑)。

 

正直、7年前は家族と働くなんて一ミリも思ってなくて。奥さんと働くなんて考えられなかったけど、やっちゃってるから面白いなって(笑)。もっとシュッとした感じでやりたかったんだけど、今はこのスタイルが良いなって思うし。これが個人経営の本来の姿だったのかなって思うんですよね。

 

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