「ここでやり続けとるから格好良いねん」
MR.CROWN 店主・松田歩の営み
Text:Maruro Yamashita
Photo:Kosuke Inui
神戸・三宮のすぐ隣町。春日野道の駅から5分ほど住宅街の方に歩くと、坂の途中に「MR.CROWN」は現れる。店内にはアメリカから買い付けた古着やスポーツカルチャーを感じさせる雑貨や、「MR.CROWN」のオリジナルグッズも並び、昨年も「stacks bookstore」でPOP UP “BOOK TOWN SERIES”を開催した注目のショップです。
古着の奥にあるカルチャーや人の営み、アメリカのスポーツ、ジャズ、街角のおっちゃんたちの着こなし。そして春日野道という土地への愛着。そういったものを「MR.CROWN」というお店を通して表現している、店主である松田歩さん。
「正解なんてない」と話す歩くんの言葉には、流行や価値基準が目まぐるしく移り変わる今の時代だからこそ響く説得力があります。
神戸・春日野道で5年。「MR.CROWN」という場所がどのように生まれ、これからどこへ向かおうとしているのか、話を聞きました。

— お店は何年目ですか?
店舗は今年の5月で5周年でした。でも、その前からオンラインで販売したり、数ヶ月に一回くらいのペースでPOP UPをやったりしていたので、それも含めたら7年くらいですね。
— もともと古着屋さんで働いてたんですか?
いや、美容師だったんですよ。東京とNYに店舗がある「THE OVERSEA」という美容室で働いていていて、コロナ前くらいに辞めました。

— そこから古着屋を始めようと思ったきっかけは?
服は好きだったんですけど、当時はそんなに知識があったわけじゃなくて。美容師の仕事でNYに行かせてもらっていたときに、街のおっちゃんたちの着こなしとか、お店のあり方とかを見て、自分のバックグラウンドを表現できる場所が欲しいなと思ったんです。 向こうのお店って、日本だとあまり見ないやり方でアウトプットしているところが多かったんですよ。「自分もこういう店をやりたいな」と思ったのが始まりでした。もともとアメリカのスポーツやUSカルチャーが好きだったので、そういうものを自分なりに解釈して表現したいなって。

— 単に洋服を売るだけではなく。
そうですね。結果的に、服や雑貨を扱っているだけで、最初にあったのは「表現する場所を作りたい」という気持ちでした。だから古着についても、正直、始めてから勉強したことの方が多いんですよ(笑)。
— 屋号の「MR.CROWN」は最初から決まっていたんですか?
そうですね。NYに住んでいた頃、近所によく通っていた「Crown Fried Chicken」というフライドチキン屋があって。そこから取りました。安くて美味かったんで、ほぼ毎日行ってましたね(笑)。

— NYではどの辺りに住んでいたんですか?
ブルックリンのディカルブですね。Lライン沿いで、ロリマーよりもう少し先の方です。
— ローカル色の濃いエリアなんですかね?
この「MR.CROWN」もそんな街中に自然と馴染んでそうな佇まいだなって思います。 最初はスモールスタートが良いなと思って。とりあえずはここから始めて、将来的にはもっと大きい場所でやりたいですね。セレクトもやりたいですし。でも今はまず、ここでちゃんと格好良いことを続けていきたいなと思っています。

— 歩くんは地元も神戸なんですか?
兵庫なんですけど、もっと田舎ですね。ここから車で1時間ちょっとくらいの中町っていうところで、電車も通ってないような場所です。
— では、この場所を選んだ理由は?
神戸ってジャズの街なんですよ。僕自身ジャズも好きですし、自分の好きなカルチャーとの相性を考えたときに神戸はしっくりきたんです。ただ、都心でやるのはその時の自分にはちょっと違うなと思っていて。

— 少し外れた場所で、自分の世界観を見せたかったんですね。
そうですね。こういう場所に、ぽつんとこんな店があったら面白いやろなって。 辺鄙な場所でも、ちゃんとプロップスがあれば来てくれるやろうと思ったんです。

— お客さんとの距離感も近くなりそうですね。
それはあります。もちろんマインドを押し付けるわけじゃないですけど、わざわざ来てくれる人たちだからこそ、ちゃんとコミュニケーションも取れるし、自分が大事にしていることも伝えられるんです。
— 古着そのものだけではなく、その背景にあるカルチャーも含めて伝えたいということですよね。
そうですね。向こうで見たおっちゃんたちの着方が格好良かったとか、自分はこういう影響を受けたとか、そういう話ができるのが古着の面白いところやと思うんです。もちろん服が好きっていうのは大前提なんですけど、それだけじゃなくて。そういう背景も含めて知ると、もっと楽しくなると思います。

— アメリカンスポーツは昔から好きだったんですか?
メジャーリーグが好きですね。でもNBAも観るし、フットボールも観るし、スポーツ全般ですかね。個人的にはイチロー見ながら野球やっとった世代なんで、小学校1年から中学くらいまでずっと野球をやっていて。高校ではやってなかったんですけど、今でも草野球はやっていますね。月に2回くらい。近所の友達とか大阪のアパレル関係の子とかを集めて。週2でバッティングセンターに行って練習して。意外とちゃんとやってます(笑)。

— やはり、お店を持ったことで、表現できることも増えましたか?
増えましたね。毎日試行錯誤というか、店に立ちながら考えて、「こういうことやりたいな」と思ったらすぐ試せるので。POP UPだとどうしてもその日だけじゃないですか。店は狭いんですけど、その分、自分のやりたいことを少しずつ落とし込める。 スポーツ用品店みたいな雰囲気も出したいし、でもただのスポーツ用品店じゃなくて、ちゃんとキュレーションされたものが並ぶ商店みたいな場所にしたいんです。

— この辺りは若いお客さんも増えているんですか?
増えましたね。ここ2〜3年でかなり増えたと思います。古着ブームもあったと思うんですけど、この辺りにも古着屋が4店舗くらいあって、知る人ぞ知るエリアになってるのかなって思います。カルチャー好きなお客さんが多いですね。最近はカップルも増えたし、女の子だけのお客さんも増えました。 意外とこの辺り、時間潰せるんですよ。良い喫茶店もあるし、定食屋も町中華も美味しいし。朝5時から開いてる純喫茶もあって。三宮で朝まで遊んで歩いて帰ってきたら、「もう開いてるやん」みたいな(笑)。そういうところも含めて、春日野道は良い街ですね。

— そもそもアメリカのスポーツやジャズだったり、洋服だったり、カルチャー全般を好きになったきっかけは何だったんですか?
それこそNYですね。「THE OVERSEA」に入る前は、そこまでじゃなかったんですよ。スポーツも洋服ももちろん普通には好きでしたけど。でもNYに行って、向こうに住んでいる人たちと出会って、全部変わりました。服装も変わったし、価値観も変わった。 ジャズもそうです。お客さんの知り合いにジャズバンドをやっている人たちがいて、その人たちの曲が店のプレイリストに入っていたり「MOMA」でライブしてたりしてて。それがすごい良くて。ジャズを好きになったのもそこからですね。だから全部ガラッと変わったのは、間違いなくNYなんです。
— 神戸とも東京とも違いましたか?
でもNYの人の感じは関西に近いなと思いました。都会特有のドライさはあるんですけど、ハートはめっちゃ熱いというか。大阪の人にもそういうところがあると思うんですよ。だから居心地が良かった。みんな結構話しかけてくるし、親切やし。住めるわ、って思いましたね。いつかNYでPOP UPもやりたいです。オリジナルのアイテムとか持って行って。それは一つの夢ですね。

— オリジナルアイテムを作ることにも抵抗がないですよね。
全然ないですね。むしろ古着好きなら作れば良いやんって思います。ブートレグだってそうやって生まれたわけじゃないですか。古着屋なのにオリジナルを作るのは違うっていう考え方もあると思うんですけど、僕はあまりそうは思わないですね。

— その感覚もNYで見てきたものと繋がっている気がします。
そうかもしれないですね。日本だと、良いとされているものしか買わない人が多かったりするじゃないですか。でもそれって違うと思うんですよ。もっと自分で選んで、自分で価値を付ける人が増えたら良いなと思います。



— ファッションは正解のないものなんだから、自分の価値観で選んで欲しいということですね。
そうなんですよ。もちろん古いものとか珍しいものはすごいし、良いものなんです。でも、それだけじゃない。最近のものでも良いものはいっぱいありますし。昔はもっと、自分で探していた気がするんですけど、今はSNSの影響もあって、「良いとされているもの」を追いかける人が増えた気がするから、もっと色々と自分の考えを持って選ぶような人が増えたら面白いのになと思います。
— 最後に、これからのお店の展望を聞かせてください。
30代のうちに拡大移転できたら良いなと思っています。ただ、場所は春日野道のままですね。それは変わらないと思います。

— この街が好きなんですね。
好きです。ここでやっていきたい。ここでやり続けとるから格好良いねん、っていう気持ちもありますし(笑)。誰もやっていないようなことを、この春日野道でやりたいですね。