タトゥーアーティスト
fumijoeの「垣根をなくす」表現

text:Chisa Shiohira
APRIL 2 2026 | 

大阪でタトゥーアーティストとしてキャリアをスタートし、15年以上活動を続けてきたfumijoeさん。現在はオランダ・マーストリヒトを拠点に、日々表現の幅を広げている。
2026年2月に当店で開催した展示 “De contouren van introspectie (内省の輪郭)” では、フラッシュ(タトゥーの下描き)の展示に加え、映像や陶器の作品、提灯をモチーフにした作品を取り入れた空間での表現に挑戦。週末にはタトゥーのポップアップも行った。
会期中、fumijoeさんの周りには自然と人が集まり、その空気が広がって、気づけば店内に彼女の世界観が立ち上がっていたのが印象的だった。
今回、これまでとは異なる角度から自分の感覚に向き合ったというfumijoeさんに、タトゥーと出会ったきっかけから、現在の制作の背景にあるオランダでの暮らしについて話を聞いた。

― タトゥーに出会ったのはいつ頃なんですか。

高校を卒業して、これから何を仕事にしていこうかと考えていた頃ですね。子どもを産んだばかりで、当時は本当にすべてが混沌としていて。どんなふうに子どもを育てていくのか、自分がどう生きていくのかをゆっくり考える余裕もなくて、ただ目の前のことをこなす日々で。稼がないといけないという現実がありながら、このままバイトを続けるだけでいいんかな、という違和感がずっとあって。答えの出ないまま時間だけが過ぎていく中で、友達に「タトゥーやってみたら?」って言われたのがきっかけでした。

— 絵を描くことや、タトゥー自体には興味があったんですか?

もともと絵はずっと描いていて、友達と展示をしたり、小規模な活動はしていたんです。タトゥーも、彫られる側としてすごく好きで、いつか自分でもやってみたいという気持ちはありました。実際に始めてみたら、もう本当に楽しくて。「これ絶対やめられへん」って思ったんですよね。うまく言葉にできないんですけど、内側から何かが一気に湧き上がってくるような感覚があって、そのまま一気に引き込まれていきました。

― 最初は地元・大阪を拠点に活動されていたと思うんですが、そこから拠点を移そうと思ったきっかけは何だったんですか?

20代後半は師匠のもとで修行していて、その頃に夫のameくんと出会いました。もともとアーティストとして活動していた彼もタトゥーを始めて、大阪で一緒にスタジオをやるようになって。自分は海外経験がなかったんですけど、彼がよく海外に行っていて、その影響で一緒にいろんな場所を旅するようになったんです。その中で、自分のやっていることは、もしかしたら海外のほうが合うのかもしれない、と思うようになりました。

― 日本で積み上げてきたものがある中で、海外に移住することに迷いはありませんでしたか。

実は本格的に移住を決断するきっかけになった出来事があって。それが、2017年に日本で起きたタトゥーの裁判です。タトゥーが医療行為にあたるとされ、医師免許を持たないタトゥーアーティストに有罪判決が下されたんです。最終的には無罪になったものの、その過程で「自分はグレーな仕事をしているんじゃないか」という違和感がずっと残っていて。ameくんとの間に息子が生まれたこともあって、タトゥーアーティストがきちんと職業として認められている場所で働きたい、そういう環境で子育てをしたいという気持ちが強くなっていきました。

― なぜオランダを移住先に選んだんですか。

外国人のアーティストを受け入れる土壌があるヨーロッパを中心に、いくつかの国を見ていました。実際に短期間住んでみた国もあったんですが、ちょうどコロナ禍と重なってしまって、なかなか決めきれなくて。最終的には、日蘭通商航海条約によってビザが比較的取得しやすいこともあり、オランダを選びました。

― 日本と比べて、タトゥーの受け止め方に違いは感じますか?

全然違いますね。オランダの人たちは「人は人、自分は自分」という感覚がはっきりしていて、他人の選択に過度に踏み込まない。日本だとどうしても周囲の目を前提にした会話になりがちですけど、それとは少し違う距離感があります。もちろん偏見が全く無いわけではなくて、「タトゥー入れすぎやろ」みたいに言われることもあります(笑)。でも、それ以上干渉されることはほとんどないですね。いろんなバックグラウンドの人が当たり前に混ざり合っているから「こういう人はこうだ」って決めつけること自体にあまり意味がないんだと思います。

— 日本では、タトゥーアーティストという職業に対する偏見を感じることはありますか?

もちろんあります。でも、自分は全員に理解してもらおうとは思っていないんです。嫌だと感じるのもひとつの価値観だと思うし、日本ではそう感じる人のほうが多いのも事実なので。タトゥーは自分で選んで入れるものじゃないですか。だから責任も伴うし、どう見られるかも含めて引き受けるものだと思っています。それでも、タトゥーが入っているから、タトゥーアーティストだからという理由で、その人自身が否定されるものではないと思っています。

振り返ると、自分はすごくあたたかい人たちに囲まれてきました。特に印象に残っているのが、息子が通っていた大阪の保育園で。先生たちが本当に素敵で、すごくよくしてもらったんです。
子どもたちと一緒に絵を描くワークショップをさせてもらったり、タトゥーの話をする機会をもらったりして、自然に受け入れてもらえたことがすごく嬉しかった。保護者の方から丁寧なお礼のメールをもらったり、先生たちと飲みに行くこともあったりして、日本もいいなって思いました。どの国にも自分にとって完璧な環境はないし、それぞれに良さもあれば難しさもある。だからこそ、自分がどこにフォーカスを置くか、という感覚で拠点を考えるようになりました。今は息子の環境を一番に考えています。

― オランダでも、そういったワークショップなどの活動を続けているんですか?

そういった活動はずっと続けています。移住してからも、保育園の壁に絵を描いたり、子どもたちとワークショップをしたり、地域と関わることを大事にしています。活動の中で意識しているのは、「垣根をなくす」ということですね。人種とか年齢とか立場とか、そういうものを越えて関われた瞬間に、ぱっと世界が広がる感覚があるんです。いい音楽を聴いているときに、その場にいる人たちが一緒に高揚していく、あの感じに近いかもしれないです。ああいう瞬間がすごく好きで。特に子どもはそれをまっすぐ受け取ってくれるので、どんどん広がっていくのが面白いですね。タトゥーは基本的に一対一の仕事ですけど、ワークショップや展示だと、普段触れない人ともつながれる。そこから少しずつ価値観が広がっていくのが面白いなと思っています。

前から「本屋でタトゥーをやりたい」というイメージがあって、今回実現できたのはすごく嬉しかったです。きっかけは、夫とベルリンに行ったときのこと。タトゥーの予約をしに行ったら「週末は本屋でもやってるよ」と言われて。実際に行ってみたら、本屋の中で本当にタトゥーの施術が行われていたんです。本を買いに来たお客さんたちもいる空間で、自然に共存していて。そういう「こういう形もありなんだ」と思えるきっかけを、自分もつくれたらいいなと思ってます。

― 海外で拠点をつくり、そういった活動を続けるとなると、最初は大変なことも多かったんじゃないですか?

ワークショップをやろうと思っても、どこでできるのか分からないし、知り合いもいない。そういう状況から、まず表現できる場所を見つけていかないといけないんですよね。何もできない期間があると、やっぱりすごくもどかしいんですけど、それまで自分がどれだけ環境に恵まれていたかにも気づかされて。新しい場所では、やはりまずその土地を知って、人と関わって、そこから少しずつ関係をつくっていく必要があるんですよね。

全部ゼロから始めるのは大変ですけど、その分誰かと何かを共有できたときの喜びは大きいし、できなかったことができるようになったときの実感も強い。その振り幅が、そのまま作品にも影響している気がします。できないことに向き合うのはしんどいし、恥ずかしい思いもたくさんします。でも、その中で「自分に何が足りていないのか」が見えてくる。当たり前にできることだけを続けていても意味がないと思っているので、これからも知らないことや難しそうなことにも向き合っていきたいです。

― アーティストとしての活動だけでなく、生活の面でもそういった意識はありますか。

あります。オランダに来て、子どもの権利を社会全体で守る姿勢に驚きました。親であっても先生から普通に注意されるし、その環境の中で、子どもと同じ目線で向き合うことの大切さを実感するようになりました。親ってどうしても「こうしなさい」って言いがちですけど、自分はできていなかったりもするじゃないですか。それだと説得力がないなと思っていて。だからまずは、自分ができる範囲でちゃんとやる。その中で感じるしんどさも含めて、子どもと向き合うときに活きてくると思っています。

― 今回の展示のタイトル “De contouren van introspectie (内省の輪郭)” には、どんな思いが込められているんですか。

これまでタトゥーのフラッシュ(下描き)は、デザインの感覚で描いていました。モチーフ自体に意味が無いわけではないんですけど、人気のあるモチーフを描いたり、配置や色のバランスで、お客さんの希望に対してどう応えるか、さらにそれをどう超えて提案できるか、ということを大事にしてきました。でもオランダに来て、「もうそれだけじゃなくていいかもしれない」と思うようになって。もっと自分の内側にあるものを掘り下げて、作家として形にしてみたいと思ったんです。自分が純粋にいいと思うものを、そのまま出してみる。そうすると、既存の枠に収まらないものが自然と生まれてくる感覚があって、それがすごく面白いんです。「内省の輪郭」というタイトルは、そうやって自分の中にある曖昧な感覚を、少しずつ形にしていく過程を表しています。

― 今回の展示では、映像や陶器、提灯など、表現の幅もかなり広がっていますよね。

今回の展示は、ひとつひとつの作品というより、空間全体でひとつの作品として受け取ってもらえていたら嬉しいです。タトゥーという枠に限らず、自分の見ている世界や考えていることを、もっと広い形で提示してみたかったんです。自分の色んな側面が影響し合って、一つの世界観ができていると思います。タトゥー以外のことに触れてみて、「これ、めっちゃ好きかも」と思えるものに出会うと、それがまたタトゥーにも返ってくる。もうタトゥーを始めて15年ほどになるので、これからどう続けていくのかも自然と考えるようになりましたが、今は制作にちゃんと向き合えていて、それが純粋に楽しいです。誰かに何かを届けるためには、まず自分自身が「いい」と思えるものや、心が動いた感覚をちゃんと掴めていることが大事なんじゃないかなと思います。

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