写真家・岡田美波が『blood』に込めたもの
Text : Chisa Shiohira Portrait and exhibition photos : 三枝真弥2024年、HYSTERIC GLAMOUR 渋谷店での写真展を皮切りに、F.A.T.や寅壱のルック、DOMICILE TOKYOのストアシューティング、「川」「STUDY」といった媒体でも活動を広げてきた写真家・岡田美波さん。
ファッションの現場に立ちながらも、パーソナルワークで撮り続けてきたのは、自分自身の生活。スケーターでもある彼女の写真には、いつもスケートのある日常が映り込んでいる。
そんな岡田さんが、2026年1月に当店で展示を開催。あわせて当店から写真集を出版した。タイトルは『blood』。今回、スケーターとしての視点だけでなく、ひとりの人間として流れているものにカメラを向けたという。
展示を終えたばかりの岡田さんに、写真を始めたきっかけから、『blood』に込めた思いまでを伺った。

― 写真はいつ、どんなきっかけで始めたんですか。
写真を本格的に始めたのは、文化服装学院に通っていた頃です。非常勤講師として、写真家の湯浅亨さんが「ファッション写真史」という授業を担当していて、それがとにかく面白かったんです。他の授業は結構サボってたけど、その授業だけは必ず出席してました。
ある時、授業の課題でzineを制作することになって、お下がりのカメラで撮りためていた写真を2冊のzineにまとめ、提出しました。そしたら、湯浅さんがすごく褒めてくれて。「カメラマンにならないの?」って声をかけてくれたんです。
それまで写真を仕事にするなんて考えたこともなかったけど、それがきっかけで写真とちゃんと向き合ってみたいと思うようになりました。もっと学びたいと伝えて、湯浅さんのもとでアシスタントを始めたのが、本格的なスタートです。
― 今、岡田さんはファッションの写真を多く手掛けていますよね。写真家を目指そうと思った時には、そういった撮りたい写真のイメージはあったんでしょうか。
その時はまだよく分かっていませんでした。単純に、写真っておもしろそうって思った。ただそれだけでした。はっきりとしたビジョンがあったわけではないけど、卒業したあとに自分が進みたい道は、写真だって思えたんです。

― 『川』にも掲載されたスケーターの友人たちの写真は、岡田さんを象徴する作品のひとつですよね。あの作品はどのように生まれたんですか。
それも、湯浅さんに勧められて撮り始めたのがきっかけなんです。スケートを始めたての頃は、みんなが楽しそうに滑っている空気をそのまま撮っている感じだったけど、「ただ楽しい様子を撮るだけなら誰でもできる。ちゃんと自分のコミュニティに入り込んで、あなたの目線で撮ってみたら。」と言われて。それからは友だちだからこそ見える瞬間とか、その場にいる私だからこそ届く距離感を意識するようになって、あの時に言われたことが今の作品につながっていると思います。
― スケートを始めたのは、どんなタイミングだったんですか。
中高生の頃からスケーターに憧れはありました。でも、女の子で滑っている人をほとんど見かけなくて、自分がやる姿は想像できなかったんです。文化を卒業して2年ほど経った頃、SNSで見たガールズスケーターの動画がかっこよくて、やってみようかなと思ったんです。ちょうどコロナ禍で時間もあったので、メルカリで安い板を買い、1人で公園で練習を始めました。
― その後、ガールズスケーターの友人たちとは、どうやって出会っていったんですか。
スケートショップの存在がとても大きいです。通う店をひとつ決めれば、そこでコミュニティができる。最初は1人で滑ってたけど、ローカルのスケートショップができてから、どんどん友だちが増えていきました。ガールズスケーターの友だちも、それがきっかけで増えました。男の子ばかりで最初はちょっと行きづらいけど、女の子でも行ってみれば自然と友だちができると思います。

― 友人たちのどんな瞬間を切り取りたいですか。
例えば、転んだあとのめちゃくちゃ生々しい傷を撮ったりします。それも、コンパクトカメラでさっと撮るのではなくて、一眼でしっかりピントを合わせて撮る。そういう瞬間は、軽く扱ってはいけない気がして。
攻めて、転んで、めっちゃ痛いし、イライラもしてる。そんなタイミングで「ちょっと撮らせて」と声をかけるのは、正直結構気まずいです。でも、その傷には、その人がどれだけ本気でスケートに向き合っているかが表れてる。だからこそフォーカスしたい、きちんと向き合って写したいと思うんです。
それってやっぱり関係性がないと難しいと思うんですよね。自分も同じ場所で滑り、同じように転び、同じ痛みを知っているからこそ撮れる。傷とか、着替えてる瞬間とか、自分が同じコミュニティの一員だから踏み込めるし、だからこそ、ちゃんと誰かに何かが伝わる写真になるんじゃないかなって思ってます。

― 雑魚寝して、すっぴんのままの寝起きの女の子たちの写真が印象に残ってます。あの無防備さって、なかなか撮れないですよね。
そうですよね。だから、常に撮ってるんです。もうみんなも「ああ、また岡田さん撮ってるわ」みたいな感じになってると思います(笑)。でも、それくらい自然にならないと撮れない。そこまでいけるかどうかは、どれだけ一緒にいるかだと思います。
― 今回の展示タイトルが 『blood』で、以前出版されたzineは 『Skins』でしたよね。どちらも身体にまつわる言葉ですが、これらのタイトルにはどんな思いが込められているんですか。
『Skins』は、スケートを始めてから2年ぐらいの間に撮りためた写真をまとめたものでした。スケーターにもそれぞれ生活があって、嫌なこともあるけど、その中でスケートをして、再生していく感じがあって。それが皮膚みたいだなって思ったんです。外側にあって、守ってくれて、でもちゃんと傷つくもの。
でも今回の『blood』では、特定の瞬間だけを切り取るのではなくて、自分の中を流れている感情や時間ごと表現したかったんです。楽しい時、悲しい時、なんでもない瞬間も含めて、全部自分の生活だから。
それでもやっぱりスケートって私の生活の一部で、無くならないし、どうしても入り込んでくる。それも同時に伝えたかったです。
― もっと自分自身の内側を表現したいと思ったのは、何かきっかけがあったんですか。
『Skins』を出版した2、3年前は、ちょうど友だちが一気に増えたタイミングで、彼女たちの写真を1冊にしたいって気持ちがすごく強くて。でも、そこからちょっとずつ生活も変わっていったり、忙しくなって、スケートをする時間も減ったり。身内が初めて亡くなって、自分の中で初めて出会う感情があったり、いろんな変化があったんです。自分のことでいっぱいいっぱいで、自分の感情をどう整理すればいいのか考える時間が多かったからだと思います。

― そうやって自分の生活に立ち返った上で「いま撮らなきゃ」と思う瞬間は、どんな瞬間なんですか。
カメラはいつも持ち歩いています。でも、悩んでいるときやしんどいときほど、シャッターを切る回数が増える気がします。たぶん、うまく言葉にできない感情が溜まっているから。人に話せることもあるけど、誰かに伝えたところで解決しないこともありますよね。そういう気持ちは、私にとっては写真でしか外に出せないんです。もともと人を羨ましいと感じやすい性格なので、バスの中で仲良くしているカップルの姿についカメラを向けてしまうこともあったり(笑)。その一方で、ただ木が揺れているだけの風景を撮ることもある。そのときどきの感情に揺さぶられたものを、そのまま撮っています。
― 今回用意してくださった「生活を撮る。普遍を見つめ、認識する。それを繰り返している。」というステートメントにも繋がっていそうですね。
今回の展示をきっかけに、自分は写真で何をしているのか、改めて考えました。撮っている瞬間は、本当にただ目の前の出来事を記録しているだけなんです。でも、時間が経ってから見返していると、あのとき自分はこう感じていたんだって気づく瞬間がある。その感覚を「認識」っていう言葉にしました。
ただ、あまりに普遍的すぎて、撮影する瞬間には特別だとは思ってないんですよね。でも、撮って、あとから見つめ直して、あの時間は何だったのかを理解していく。その繰り返しが、自分にとっての写真なんだと思います。

― 今回の展示のメインビジュアルにもなっている魚の写真は、どう振り返りますか。
これは、2019年に撮影してからずっとどこかで使いたいと思っていた、お気に入りの写真なんです。
魚を裂いているけど、完全に裂けきってはない。その状態が、今の自分と重なっていると思います。ここ数年で自分も確実に変わってきたけど、それでもどこかに変わらないままの自分もいて。
数年経ってこの写真を使いたいって思ってること自体が、変わってない証拠だと思うんです。ずっと頭の片隅に残っていて、『Skins』よりももっと内側をテーマにしようと思ったとき、ちゃんと手元にあった。stacksで展示させてもらえることが決まった時、いま使うべきだなって思いました。
― 最後に、この写真集をどんな人に手に取ってほしいと思っていますか。どんなふうに届いたら嬉しいですか。
写真を見た人から、「弱い人の味方みたいな写真だよね」って言われることがあります。自分ではそこまで意識しているわけではないけど、スケートだけを切り取らないようにしているのは、どこかでつながっている気がします。
完成された写真よりも、見る人が入り込める余白がある写真を、自分は撮っていたいんです。その余白は、共感だったり、見たことはないのになぜか知っている気がする景色だったり。
しんどいのに、何がしんどいのかうまく説明できない瞬間って、誰にでもあると思うんです。そういう感覚を抱えている人にも、届いたら嬉しい。自分自身がその感覚の中で撮ってきたから、どこかで重なる部分があるんじゃないかと思っています。
岡田美波 / Minami Okada
1998年福島県白河市生まれ。東京都育ち。文化服装学院卒業後、写真家の湯浅亨に師事したのち 2023年3月に独立。身の回りのスケーターや、生活を撮っている。
2024年9月写真展 『TRY IT YOU’LL LIKE IT』HYSTERIC GLAMOUR 渋谷店

